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大学 | 疑問 No.01

学生の疑問を追って見えた「全面禁煙」と現実のギャップ

東海大学湘南キャンパスの喫煙所は、なぜ封鎖されたままなのか?

「キャンパス内の喫煙所は、なぜ封鎖されているのか」。この疑問は、東海大学湘南キャンパスに通う女子大学生から寄せられたものだ。現在もキャンパス内には喫煙所の設備が残されている一方、すべて利用できない状態となっている。しかし、キャンパス内では喫煙する学生や吸い殻を目にすることが多い。この疑問に答えるため、学生や清掃員、大学教職員に取材した。そこから見えてきたのは、健康や法律、学生への周知など、さまざまな課題が複雑に絡み合う現状だった。

杉森 美優(広報メディア学科 3年) |

💬 寄せられた疑問

「キャンパス内の喫煙所は、なぜ封鎖されているのか。」

— 投稿者:東海大生

調べた大学生

杉森 美優(広報メディア学科 3年)

取材を通して、喫煙所にさまざまな立場で関わる方々にお話を伺いました。

喫煙所は使えない、それでも吸い殻はなくならない

現在、東海大学の全キャンパス内に残る喫煙所はすべて封鎖され、利用することはできない。

3号館付近の封鎖されている喫煙所

しかし、喫煙はなくなっていない。キャンパス内では喫煙する学生の姿や、地面に落ちた吸い殻をよく目にする。その吸い殻を一本一本拾っている清掃員の姿があった。

そこでまず、キャンパス内の清掃員に話を聞いた。喫煙所が利用されていた頃は、喫煙所内の灰皿の吸い殻を回収することが主な業務だった。しかし封鎖後は、キャンパス内外を巡回しながらいたるところに落ちている吸い殻を回収する業務へと変わったという。

キャンパス周辺の道に散乱する吸い殻

校外については近隣からの苦情もあり、大学の指示で毎日回収を行っている。回収した吸い殻は紙たばこと電子たばこに分けて本数を数え、ポイ捨てが多い場所や現場写真とともに大学へ報告している。現在では、回収本数は週に約5000本は当たり前だという。実際に、私が登下校に使っている道は喫煙スポットになっており、いつ通っても吸い殻が落ちている。

清掃員は、「健康面を考えると、若い方ですから吸わないことが一番いいですね」と話す一方で、「外のところに何か所か(喫煙所を)設けてもらって、喫煙ができるように最低限してもらえれば、拾う手間も省けるし近隣からのクレームは来ないだろうしね」とも話した。

また、現場からは「喫煙所は完全になくさない方がいいのではないか」「吸わないように指導した方がいいのではないか」といった意見を大学へ伝えているものの、現在のところ大きな変化はないという。

喫煙所は閉鎖されている。それでも吸い殻はなくならず、清掃員は毎日のように回収を続けている。

学生からは「喫煙する場所を明確にしてほしい」との声も

では、学生はこの状況をどのように受け止めているのだろうか。湘南キャンパスの真田門付近で喫煙をしている学生二人組に話を聞いた。そもそも喫煙所封鎖に関して質問すると、「封鎖されていることは知っているけど気にしていない」「今も吸えているから(喫煙所が封鎖されていても)困っていない」という声が聞かれた。

一方、非喫煙者の学生(6人にインタビューを実施)の多くは、日頃から喫煙そのものを強く問題視しているわけではないものの、「吸うなら場所を決めてほしい」「吸い殻をそこら辺に捨てるくらいなら、喫煙所を開けてそこで吸ってほしい」といった意見が寄せられた。

特に印象的だったのは、「喫煙をなくしてほしい」という声よりも、「喫煙する場所を明確にしてほしい」という意見が多かったことだ。また、大学2年生から「大学が全面禁煙だということを知らない人も多いと思う」という声も聞かれ、大学の方針が学生へ十分に伝わっていない可能性もうかがえた。

学生や清掃員への取材を通して、「喫煙所を設けた方がよいのではないか」という意見が多いと感じた。では、そもそも喫煙所はなぜ封鎖されたのだろうか。

喫煙所はなぜ封鎖されたのか

取材を進める中で、喫煙所が封鎖されるまでの経緯も見えてきた。東海大学では2017年から、教職員と学生有志による健康づくりを目的とした「KENKOプロジェクト」が始まった。その活動の中で、キャンパス内に点在していた喫煙所を大幅削減・集約し、喫煙者と非喫煙者が共存できる環境づくりが進められた。学外企業の協力を受けて囲いのある喫煙所を整備し、喫煙者と非喫煙者が共存できる環境づくりを目指していたという。

しかし2020年、新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、人が集まる喫煙所を閉鎖。学生や教職員の健康維持を目的として学内は全面禁煙となった。

その後、2023年9月には大学が全キャンパスでの全面禁煙を正式に発表し、現在もその方針が続いている。しかし、それでもなお、現在もキャンパス内では喫煙が続いている。

東海大学ホームページに掲載された全面禁煙の通知

健康推進室が考える禁煙と現実

この現状を、学生の健康を支える立場はどのように捉えているのだろうか。学生の健康相談窓口である湘南健康推進室(15号館)を訪ねた。

15号館 健康推進室受付

湘南健康推進室は、禁煙相談や健康診断時の保健指導のほか、世界禁煙デーに合わせた啓発活動などを行っている。今年は旧喫煙所周辺で吸い殻を拾いながらチラシを配布する活動も実施したという。

取材を行った健康師個人としては、「吸える環境をなくすことは禁煙へのきっかけになる」という考えから、全面禁煙に賛成寄りの考えを示した。一方で、職員の考え方は一様ではない。「健康面を考えれば全面禁煙を進めるべき」という意見がある一方で、「受動喫煙を防ぐため、分煙された喫煙場所を設けてもよいのではないか」と考える職員もいるという。

また、健康師は現在の状況について、「旧喫煙所が旧喫煙所になりきれていない」とも話した。喫煙所内で塞がれている吸い殻入れは、学生によって剝がされているのが見受けられる。設備が残っていることで、喫煙所だった当時の印象が残り、学生が喫煙できる場所だと認識してしまう状況も課題の一つとなっている。

「喫煙所を開ければ解決する」とは言えなかった

学生への取材では喫煙場所を設けてほしいという声が多く聞かれ、清掃員からもポイ捨てや近隣への影響を考えると喫煙所があった方がよいという意見があった。湘南健康推進室でも全面禁煙の意義を認めながらも、分煙された喫煙場所という考え方があることを知り、私自身も「喫煙所を設けることは喫煙者・非喫煙者双方にとって現実的な解決策なのではないか」と考えるようになっていた。

そんな中で私が抱いた疑問は、「なぜ大学は喫煙所を再設置しないのだろう」というものだった。その疑問について調査するため、学内で喫煙問題に関係する担当部署ならびに関係者の方々に話を聞いた。過去の卒業生アンケートで喫煙に関する意見が多く寄せられていることなど、学生の意見も踏まえ、校内の喫煙問題に対し総合的な検討の必要性を大学に提唱しようと検討しているという。

左から 内田匡輔さん(キャンパスライフセンター所長)、堀真奈美さん(学長補佐)、村田信一さん(大学戦略本部部長)
左から 宮崎誠司さん(キャンパスライフセンター健康推進担当部部長)、田島和枝さん(学長室課長)

「なぜ再設置しないのか」という私の疑問に対して、堀さんは、「大学方針の背景には、2020年4月に施行された健康増進法改正の影響があるのではないか。現在、大学は、健康増進法により『原則敷地内禁煙』が義務付けられている。特定屋外喫煙場所の設置はあくまで例外。設置するには、受動喫煙を防ぐための設備や区画、標識、未成年者が立ち入らないための対策など、さまざまな条件を満たす必要がある。他大学も同様に悩んでいる難しい課題だが、法改正以降は、全面禁煙を進める動きが強まっているようである。大学としては学生・教職員の健康維持は重要」と説明した。

さらに、現在キャンパス内に残されている旧喫煙所は、現在の基準を満たしていないところもあり、そのまま再開することはできないという。仮に喫煙所を設置するのであれば、新たな場所に基準を満たしたスペースを再整備する必要があり、整備や維持管理にも費用がかかるようだ。

また、過去には喫煙所が設置されていた当時でも、風向きによって煙が教室へ流れ込み、受動喫煙に関する苦情が寄せられていた。天候や風向きまで管理することは難しく、適切な設置場所を確保することも容易ではないという。

喫煙所の再設置についても、プロジェクト内で考え方は一つではなかった。内田さんは、「どこで吸えばいいと言えない状況であれば、そうした場所を設けることも一つではないか」と個人的な考えを示した。その一方で、喫煙所を設けることで、これまで吸っていなかった学生が喫煙を始めるきっかけになってしまうのではないかという意見も挙がった。

学生の健康を守りたいという思いは共通しているものの、その実現方法についてはさまざまな考え方があった。

「撤去=解決」ではない

取材を進める中で、私はもう一つ疑問を抱いた。湘南健康推進室の保健師への取材では、設備が残っていることが学生の誤認につながっているという話を聞いていたため、「喫煙所を設けないのであれば、今ある設備を撤去すればいいのではないか」と考えた。しかし、これにも理由があった。

宮崎さんによると、現在残されている喫煙所は学外の企業の協力を受けて整備された設備であり、設備の撤去には協力関係の会社と協議をする必要があるため、「撤去したい」と考えてもすぐに実行できる状況ではない。設備が残っていることで「ここは吸っていい場所なのではないか」と学生が誤認してしまう一方で、撤去にも簡単には踏み切れない事情があった。

ガムテープ等で封鎖されている喫煙所内の吸い殻入れ(2026年6月時点)

「全面禁煙」が伝わっていないという現実

参加した教職員に向けて、取材をした在学生(私も含めて)のキャンパス内全面禁煙への認識の低さや、喫煙所封鎖についての意見を伝えた。それを踏まえて、いくつか課題を挙げてくれた。

内田さんは、入学時のガイダンスでは学内ルールの一つとして全面禁煙を説明しているものの、学生の印象に残る形では十分周知できていないことを課題として挙げた。また、健康被害については必修授業で扱っている一方、「学内全面禁煙」というルールそのものを入学時以降に伝える機会は限られているという。

学生生活に関する規則では、「大学が指定した場所以外で喫煙してはならない」と定められている。しかし現在は、大学が指定する喫煙場所は存在しない。そのため、現在指定された場所がないため吸ってはいけないということになるが、実際は「ここなら吸ってもいいのではないか」と学生自身が判断してしまうケースもあり、キャンパス内のさまざまな場所で喫煙が行われている現状につながっている。

さらに、村田さんは、以前は喫煙所があったため「決められた場所で吸ってください」と指導できたが、現在は喫煙所がないため「ではどこで吸えばいいのか」と聞かれても答えられないことが、教職員にとっても注意をすることの難しさになっていると話した。

議論はまだ始まったばかり

喫煙所を設けるべきか、卒煙を目指すべきか、まずは学生への周知を徹底すべきか。一つの結論を出すためではなく、それぞれの立場から意見を出し合い、より良い方法を模索するための議論が始まったばかりだ。

これまでにも、KENKOプロジェクトでは喫煙マナーを呼びかける壁面アートや啓発活動を行ってきた。また、学生のやってみたいを支援する教育プログラム「ToCoチャレ」で、東海大学の禁煙等(大学の課題解決に取り組むテーマのうちの一つ)をテーマとして扱うプロジェクトも検討したが、応募する学生は現れなかったという。

現在は、大学全体としての公式なプロジェクトはない。その中で、今回取材をした方々は喫煙問題に対する総合的な検討の必要性を大学に提案しようと動き始めたところであり、さまざまな立場の教職員だけでなく、それぞれ異なる考え方を持つ人たちが集まっている。そのため、喫煙所を復活させてもポイ捨てなどのマナーの問題があるのではないかという意見や、ポイ捨てに起因する火災の危険性についても考慮しながら取り組む必要があるとの意見、学生同士が注意し合える環境づくりも必要ではないかという意見が挙がっていた。さらに、このような多様な意見がある中で、少しでもいい方法を模索するために学生も議論の場に参画する機会を設けたいという声もあった。

取材を振り返って

取材を始めた頃の私は、「喫煙所があるなら開ければいいのに」と考えていた。学生、清掃員、湘南健康推進室への取材を通して、その思いはさらに強くなった。しかし、最後に取材を行った教職員の話を聞いたことで、健康、法律、設備、契約、学生への周知など、多くの課題が複雑に関係しあっていることを知った。

そして何より印象に残ったのは、大学の教職員も、一つの考えを持って集まっているわけではないということだった。それぞれ異なる立場や経験から意見を交わしながらも、共通していたのは「学生の健康を守りたい」という思いだった。

「なぜ喫煙所は封鎖されたままなのか」という学生の疑問から始まった今回の取材。この答えは一つではなく、大学でも今、その答えを探すための議論が始まったばかりである。

取材協力・参考文献

湘南キャンパス清掃員の方
湘南健康推進室
東海大学学生の皆さん
内田匡輔さん(キャンパスライフセンター所長)
堀真奈美さん(学長補佐)
村田信一さん(大学戦略本部部長)
宮崎誠司さん(キャンパスライフセンター健康推進担当部部長)
田島和枝さん(学長室課長)
学長室総務・地域連携担当

・「【学生・教職員各位】東海大学全キャンパスの禁煙について」(東海大学ホームページ)
・「ToCoチャレ」(東海大学ホームページ)