あなたが先延ばししてしまう本当の理由
課題や仕事を後回しにしてしまった時に自分の意志の弱さを責めてしまった経験のある人は少なくないだろう。しかし先延ばしは単なる怠けや意志の弱さだけではない。
そもそも先延ばしは決して一部の人だけが抱える問題ではなく多くの人が悩んでいる問題である。Solomon & Rothblum(1984)のアメリカ・バーモント大学の学生342名を対象とした調査では、大学生の46%がレポート作成を「常に」または「ほぼ常に」先延ばしすると回答している。また、Steel(2007)は大学生の80〜95%が何らかの形で先延ばしを経験していると指摘しており、先延ばしは多くの人に共通するごく一般的な行動である。
ではなぜこれほど多くの人が先延ばしをしてしまうのか、東京大学大学院特任研究員で先延ばし癖をテーマに研究している柏倉沙耶さんに聞いた。
柏倉さんは先延ばしについて「先延ばしは意志の弱さではなく、人類が生き残るために獲得した生存戦略の副産物なんです」と話す。
柏倉さんによると、人類は250万年前の狩猟採集時代、食料も安定せず次いつ獲物に出会えるかわからない環境で生活していた。そのため人間にとって数か月後や数年後の未来ではなく、目の前の獲物を優先したり体力を温存するなど今を生きることが重要な時代を生きていた。
しかし農耕社会や産業革命を経て、人間は長期的な計画を立てて行動しなければいけない社会を短期間で築いてきた。そのため「社会で正解とされるものや仕組みは変わったにもかかわらず、私たちの脳の仕組みは変わらないままきていて、そこのずれから先延ばしという問題が生まれた」と柏倉さんは話す。
つまり先延ばしとは、人類が長い歴史の中で生き延びるために身につけた自然な性質により起きる現象なのである。
「あと少しだけ」先延ばしを招くSNSの特徴とは
「課題をやろうと思っていたのに、気づけばTikTokやYouTubeショートを何時間も見ていた」。そんな経験をしたことがある人多いのではないだろうか。SNSが普及している今、SNSと先延ばし癖に何か関係することはあるのか疑問に思ったため、この点についても柏倉さんに聞いた。
柏倉さんは「人間の脳はもともと今に飛びつくようにできているんです。その今をものすごく彩るのがSNSなんですよ」と説明する。
またスマホの通知や「いいね」機能などは、「今この瞬間を彩るもので埋め尽くされているので、人が自然と引きつけられるようにうまいこと設計されている」という。「いいね」などのリアクション機能について「人は昔から集団の中で生き延びてきたので、周りから認められているか、仲間として受け入れられているかが生存に直結していました。だから『いいね』といった反応は、人間の心理とすごく結びつくんです」と語る。
特にTikTokやYouTubeショートについては「次に何が出てくるかわからない」。「その『何が出てくるかわからない』というものに対して、人は次どうなるんだろうと気になって見続けてしまうんですよね。毎回ご褒美が出てくるよりも、ランダムでご褒美が出てきた方が依存しやすいんです。パチンコやギャンブルと同じで、いつ当たりが来るかわからないからやり続けてしまう。TikTokやYouTubeショートもたまに面白いかもと思う動画が出てくる仕組みが、人を依存させるメカニズムとしてすごくよくできているんです」
そして柏倉さんは「もともと人間の脳は先延ばしが起きるような仕組みを持っているんですけど、SNSやスマホはその強力なブースト材になっています。本当に大変な時代になったなと思いますね」と話す。
先延ばしは単なる意志の弱さではなく、人間の脳の仕組みとそれにうまく働きかけるSNSの仕組みが深く関わっているようだ。
一日5秒でも大丈夫!今日からできる先延ばし対策3選
もともとの人間の脳の仕組みにプラスして、SNSの普及によりさらに先延ばししやすい環境となった今、今日からできる対策は何があるのだろうか。柏倉さんは「気合いや根性に頼るのではなく、習慣化することが重要」だと話す。
先延ばしの対策として語ってくれた方法の一つ目は、新しい行動を今毎日している習慣に結びつけること。「新しい習慣を作る時は、すでにある生活リズムに乗せた方が続きやすいんです。例えば、電車に乗ったら参考書を開く、歯磨きの後に英単語を見るなど、毎日やっていることとセットにすると始めやすくなります」
二つ目は、行動のハードルをギリギリまで下げること。「一日5分でも長いくらいで、本当に5秒でもいいんです。大事なのは完璧にやることではなく、まず始めること。始めるためのハードルを低くするほど、行動しやすくなります」
そして三つ目は、すぐに変われると思わないことだ。「人間はもともと先延ばしする生き物です。できなくて当たり前なのに、絶対毎日やる、今度こそ変わる、と思ってしまうと、できなかった時にやっぱり自分はダメだと思ってしまいます。そしてその自己否定の気持ちが次の先延ばしを生んでしまうんです」。だからこそ、少しずつ変わればいいという考えを持つことが大切だという。
自分を責めるのではなく、自分の脳の特徴を理解しながら、自分に合ったペースで付き合っていくというその積み重ねが先延ばしと向き合うための第一歩なのかもしれない。
取材協力・参考文献
東京大学大学院特任研究員 柏倉沙耶さん
・Steel, P.(2007)「The Nature of Procrastination: A Meta-Analytic and Theoretical Review of Quintessential Self-Regulatory Failure」
・Solomon, L. J., & Rothblum, E. D.(1984)「Academic Procrastination: Frequency and Cognitive-Behavioral Correlates」