Qアンドゥーa
社会 | 疑問 No.14

「給料は上がっているけど、物価高騰に追いついていない」

どうして物価は上がっているのに給料は上がらないの?

「昔は卵が1パック200円ぐらいだったのに、今では300円」「コンビニやスーパーで買い物をしているとき、特にコンビニのおにぎりが高い!」「お菓子自体が小さくなった」……そんな風に感じることが増えていないだろうか?物価高の一方で、「給料が上がらない」との実感を持つ人も少なくない。その謎を解き明かすため、店長という立場で働く方や、経済の専門家に取材した。

工藤 紗和(広報メディア学科 3年) |

💬 寄せられた疑問

「どうして物価は上がるのに給料は上がらないのか」

— 投稿者:50代パート

調べた大学生

工藤 紗和(広報メディア学科 3年)

普段何となく疑問に思っていたことを詳しく調べられてよかったです!

私がこのテーマを取材して辿り着いた答えを、先に述べたい。それは「給料は上がっていないわけではなく、上がっているが物価高騰に追い付いていないだけである」ということだ。なぜこの答えに至ったのか。その取材のようすをお伝えしたい。

物価高の反面、給与を上げる難しさ

はじめに、現在の状況や働く人の声を聞くために、とあるドラッグストアの店長さんへお話を聞きに行った。店に入ると、脇には調剤薬局のカウンターが。正面には白を基調とした壁にたくさんの医薬品などの商品が陳列されている。そんな通路をまっすぐ行くと、作業するためのスペースであろうカウンターに、インタビューを引き受けていただけたドラックストアの店長さんがいらっしゃった。

まず、物価上昇を感じるものを聞いてみたところ、「全体的に上がってるんだけど、お店としては特にタバコとかお菓子とかかな。個人としては、外食費が高くなって外食しなくなったし、ガソリンも確かに上がったね」と話す。そこで、「物価は上がっているのに給料は上がっていないように見えるのはなぜか」と聞いてみたところ、店長という立場からその難しさを次のように答えてくれた。

「会社も原材料費や政府への税関連の負担で、利益が圧迫されちゃっていて。極論、メーカーは原材料が上がれば売価を上げれば利益は維持できるんですけど、我々小売業は最終的な到達地点なんで、値段を大きく上げちゃって利益を据え置くとお客様離れに繋がっちゃうんですよ。それに、値上げって言ってるけども、原材料の仕入れが上がってる分をスライドしてるだけだから利益は増えてないし、むしろ値段を抑えようとする分利益が減ってるんですよ。だから回りまわって、賃上げのための資金も不足しているんだと思います。なんで、もうこれは利益構造の問題ですよね」

次に、賃上げの状況を聞いてみた。アルバイトの場合は店舗ごとの店長が金額を設定するわけではなく、人手不足などの理由があれば店舗から本社に提案はできるそうだ。正社員となると労働組合などが会社側と交渉して賃上げなどを決める。この本社と店舗間での相談や交渉が必要なところに、簡単には給料が上がらないしくみがあるのだと思った。

最後に、この状況をどう思っているか聞いてみたところ、「現状としては物価が上がって、賃金の上がり方はそれに見合っていないから、結局生活の余裕はどんどんなくなってくるっていう。別に、食べ物が食べられないとかじゃないんだけど、娯楽とかの余分なことができないって話で。でも、生活ができないぐらい貧困しているわけではなくて、例えば、多分9割の人が給料が上がればいいなって思ってるけど、そこまでの不安を持っている人は意外と少ないと僕は思います」と語ってくれた。

私も、確かに現状給料が上がればいいなとは思っているが、個人的にそこまで不満を持っているわけではない。しかし、給料と働きが見合っていない職種や本当に貧困している方ももちろん存在するため、難しい問題だと改めて考えさせられた。

物価と給料はどう決まる?

次に、より詳しい物価と給料の関係を聞くために、労働経済学を専門としている方を取材したいと考えた。そして、労働経済学の授業を教えている東海大学政治経済学部経済学科の張楚先生にお話を聞くことができた。

お話を伺った張楚先生

まず、物価と給料はどのように決まるのか。そもそも、物価とは諸商品の市価。商品の価値を総合的・平均的に見たもの(引用:広辞苑)で、これらは原材料費の高騰、円安、エネルギー価格の上昇など、企業の外側で起こる要因によって自動的に上がりやすい。

さらに、張先生によると、物価は単純に企業が売る商品の値段というだけでなく、原材料や資材などの生産コストなどを含めた企業側の意思決定と、消費者側の生活に大きな影響を与える社会全体の価格水準であると説明している。つまり、物価とは、企業の商品に関わるコストと消費者の生活両方に関わる、個別の商品ではなく、社会全体の価格の高さ・安さの基準である。

一方で、給料は企業やお店が「払えるかどうか」で決まるため、売上や利益に余裕がなければ上がらない。また張先生が「賃金は、人事評価や労働契約、労使交渉などの様々な手続きを経て決まります」と説明するように、多様な要素が賃金決定に関わっている。

賃金を上げても解決しない「構造的な課題」

そして張先生にも、私に寄せられた最初の疑問「なぜ物価は上がっているのに給料は上がらないのか」を聞いてみた。張先生は「企業は利益を最大化することを目的としているため、商品が高く売れて利益が増えれば賃金が上昇する可能性があるが、原材料などの消費材のコストも上昇すると利益は減るため、賃金を簡単には上げられない」と言う。

私は事前のリサーチや現場取材をもとに、「給料は上がっていないわけではなく、上がっているが物価高騰に追い付いていないのではないか」と質問してみた。先生は私と同じ意見であると肯定した上で、「名目賃金(実際にもらう給料の金額)と実質賃金(物価を考慮した本当に変えるものの量)の違いがあります。例えば、給料が5%上がっても、物価が8%上がれば実際に買えるものは減るため生活は苦しく感じます。つまりこれが、物価の上昇に給料が追い付いていない状態ですね」と、給料が上がっているのに生活が楽にならない理由を話した。

では、物価はいつまでどこまで上がるのかを聞くと、「専門ではないため、断定はできませんが、日本銀行の見通しでは、今後にかけて上昇率は緩やかになると書いてありました」と話す。つまり、これからも緩やかではあるが物価は上がり続けるため、今後も賃金の変動について労働者側も無関心ではいられないようになってくると思った。

しかし、張先生はただ単純に賃金を上げればよいわけではないと言う。理由を尋ねると、「賃金を大幅に上げると、企業は人件費を抑えようとAIやセルフレジなどと言った自動化へ置き換える可能性があります。これらは、雇用人数の減少や労働時間短縮などの選択をしなければいけない場合があるため、賃金を上げればすべて解決するという訳ではありません」と警鐘を鳴らした。

アンケートでは物価の抑え込みを望む声

現在、上記の様々な要因から給料を上げることは簡単ではないため、物価の上昇と釣り合わない状況となってしまっている。私の周囲で物価と給与についてどう考えるかの簡易なアンケートを取ったところ、次のような声が見られた。

「物価はこれ以上上がらないでほしい、給料は私が働いているところは満足」
「もう少し給料上げて、物価はこのまま現状維持するか下がって欲しいとは思う」
「給料をあげて欲しいというよりかは、物価を下げて欲しい」

給料上昇というより、物価の抑え込みが望まれているのかもしれない。

張先生は取材の中で、社会に出ると大企業と中小企業、AIと人間、男性と女性など様々な差や壁が存在すると指摘し、「誰に有利な制度なのか」「雇用への影響はどう変わるのか」などをデータをもとに考えることが重要だと話した。物価と賃金の差は私たちの生活に大きく影響する問題であるため、大学生であっても働き方や制度などを他人事と思わずに、一人ひとりが考えなければいけない時代になってきていると感じた。

取材協力・参考文献

張楚先生(東海大学政治経済学部経済学科)