聞かなくなった「三高」という言葉
「男は車を持っているとかっこいいと思う?」私の姉(20代)が居酒屋で見知らぬ30代男性に投げかけられた言葉だ。それに対し、姉はこう返したという。「え、かっこいい?まぁ、車はあったら助かる場面が多いんだろうけど……でも維持費とかもかかるし、バスと電車で何とかなるしなぁ。別に、男の人が車を持ってるからって特別かっこよさは感じないな」
男性はなぜこの質問をしたのだろう?この問いには、「男性が車を持つことを魅力に感じる時代」が背景にあるのだと考えられる。
1980年代後半から1990年代のバブル景気絶頂期に、女性が結婚相手の男性に求める理想の条件として流行した「三高」という言葉がある。三高とは、高身長、高学歴、高収入の3つの総称である。車とは高額な商品であるため、居酒屋で絡んできた男性は経済面で「男性のかっこよさ」を測っていたのかもしれない。しかし近年、三高という言葉は聞かなくなった。
結婚相手に求める条件は変わったのか?
その変化について、大谷大学で家族社会学を研究している永瀬圭先生にお話を伺ってきた。
「まず男性側の方に注目をしてみると、相手の経済力を重視・考慮する方が増加をしています。今度は女性側の方に注目をしてみると、相手の家事・育児の能力や姿勢を重視する女性が増加していて、相手の経済力を重視・考慮する女性は、だいたい9割前後で推移をしているというようなところが読み取れます。ですので、結婚相手に求める条件というのは、時代とともに変化した部分と、時代とともに変わらない部分というようなところがあります。」と述べていた。(国立社会保障・人口問題研究所「第16回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)」の結果より)
「結婚して一人前」の時代から「結婚を選択する」時代へ
なぜ、男性は経済力を重視し、女性は家事・育児の能力や姿勢を重視するという変化が見られたのだろうか。永瀬先生によると「結婚に対する捉え方が変わったのだ」と考えていた。というのも「三高」が流行する10年ほど前、日本は誰もが結婚することが当然とされる社会的風潮を指し、日本では「皆婚社会」として広く認識されていた。そんな社会風潮から結婚して家庭を持つことが一人前の大人であるといった価値観が強く、社会的な圧力が存在していた。その中には、結婚の位置づけが「生活保障の手段」だとも考えられていた。しかし、時代が進むにつれてそのような考え方が変わっていった。「結婚っていうのは個人の自由で、あくまで選択肢の一つだと捉えるような考え方が若い世代にはあると思う」と、永瀬先生は語っていた。
変えたのは、女性だけではない
では、なぜ結婚に対する考え方がこうも変わったのだろうか。女性の社会的変化に着目すると、正社員になってキャリアを追求する女性が増えている。それに加えて、主婦でも非正規雇用で収入を得ている女性も増え、多様な働き方ができるようになったことにも注目する必要があるとのことだ。雇用の変化によって収入を得る女性が相対的に増えたため、結果的に女性の場合は自分自身の経済的自立ができるようになり、結婚以外の選択肢を取ることができるようになった。だからこそ結婚が選択肢の一つになったのだろう。
しかし、それだけではないということも永瀬先生が語ってくれた。というのも、「経済状況の悪化による雇用環境の変化に伴って、男性自身の経済力が低下してきたという背景もある。そのため、女性側にも収入を得て家計を支えてほしいというようなことを求めつつある現状ではないか」と永瀬先生は考えていた。つまり、女性の社会進出だけでなく、男性を取り巻く経済状況の変化もまた結婚に対する考え方を変えてきた。結婚はどちらか一方が家庭を支えるものではなく、二人で生活を支え合うものへと変化していることがうかがえる。
「かっこいい」の基準は、時代とともに変化する
「男は車を持っているとかっこいいと思う?」
この何気ない問いの背景には、「経済力を持つ男性が理想」という、かつての結婚観があった。しかし、取材を通して結婚相手に求める条件は、社会の変化とともに少しずつ変わってきたということが分かった。女性の社会進出や男性の雇用環境の変化によって、結婚は「生活のために必要なもの」から「人生における選択肢の一つ」へと位置づけが変わった。
その結果、経済力だけではなく、家事や育児に協力する姿勢や、お互いに支え合える関係が重視されるようになっている。もちろん、安定した生活を望む気持ちは今も昔も変わらない。ただ、その「安定」を支えるものは、一人の高い収入ではなく、二人で協力して生活を築いていくことへと変化している。そして、そのためにはお互いの働き方や家事・育児への考え方、将来像について共有できる相手であることが、これまで以上に重要になっているのではないだろうか。
取材協力・参考文献
永瀬圭先生(大谷大学 家族社会学研究)
・国立社会保障・人口問題研究所(2021)「現代日本の結婚と出産―第16回出生動向調査(独身者調査ならびに夫婦調査)報告書」(最終閲覧:2026年7月2日)