暮らしを支える製品に広がる供給不安
近年、アメリカやイスラエルの軍事行動やガザ地区での戦闘の長期化などにより、中東情勢が緊迫し、ホルムズ海峡の航行への影響が懸念された。日本は中東からの原油・ナフサへの依存度が高いため、中東情勢の緊迫化の影響を受けて、2月末ごろから供給不安が広がった。帝国データバンクが2026年5月21日〜5月31日に行った中東情勢に伴うナフサなどの石油製品供給状況に関する影響調査によると、有効回答企業4604社の約7割が「影響の強まり」を感じているという。
ナフサや、ナフサからつくられた製品を販売する企業であるエアコン工事会社や、印刷会社などの需要側の企業では、「調達不安定」(73.0%)、注文してから届くまでの期間が長くなってしまう「リードタイム長期化」(50.2%)と調達・納期に不安を感じているということが分かる。また、この不安が必要資材を早く抑えようとする動きが強まり、前倒し発注や、安全在庫の引き上げなどの「在庫の確保」の動きが広まった。手に入らなくなる不安から早めに多く買う行動が多くなっていることが分かった。
一方、ナフサやナフサを原料にした製品を作ったり販売したりする石油化学メーカーや、プラスチックメーカなどの供給側の企業では、先行き不安定なコスト変動や、納期不安を背景に「仕入れ価格の変動が激しく、見積・契約が困難」(42.8%)で、14.4%の企業が「顧客の優先順位付け」という動きをとっていることが分かった。需要側の前倒し発注と、供給側の見積・契約慎重化や配分調整が同時に進むことで、世の中全体で商品がゼロになったわけではないのに、一部の会社ではほしいときに手に入らない状態である「目詰まり」が生じているとみられる。
納期遅延や数量不足などで、調達上の支障を最も生じている資材は塗料や接着剤、シンナーなどの「化学系・加工資材」(29.6%)がトップとなり、粘着テープや、プラスチック容器などの「包装・物流資材」(20.2%)、「設備・建築・電子部材」(13.9%)と続いている。支障を生じている資材を見てみると、生活に必要なものばかりでナフサ不足を少し身近に感じた。
中東情勢の緊迫化を受けたナフサなど石油製品の供給不安はプラスチック、自動車部品、医療用品、建築資材など幅広い分野に影響を及ぼしている。しかし、産業全体でものが完全に止まるというより、価格上昇、納期不安、特定品目の手配のしづらさに表れていることが分かった。(帝国データバンク「中東情勢に伴うナフサなど石油製品供給状況に関する影響調査」参照)
身近なごみ袋にも及ぶナフサ不足の影響
カルビーがスナック菓子「ポテトチップス」や「かっぱえびせん」のパッケージを表面はカラー、裏面は白黒とし、ナフサ由来のカラーインキの「節約」を実施していたり、日本各地のごみ袋が不足し、調達が困難になったりするのをニュースで目にする機会が増えた。ナフサ不足について調べていると、神奈川県横須賀市がごみ袋の条件緩和を実施していることが分かった。そこで、横須賀市役所のごみの分別などを伝える部署である資源循環部廃棄物対策課の山城空見さんに現在のごみ袋の状況や、市民の方々への影響などを聞いた。
もともと横須賀市では、燃せるごみの排出は無色透明または白色半透明の袋、缶・びん・ペットボトル、プラスチック資源、不燃ごみの排出は無色透明の袋を指定していた。しかし、6月1日から当面の間缶・びん・ペットボトル、プラスチック資源、不燃ごみについても燃せるごみ同様、無色透明または、白色半透明の袋も使用可能になった。
市内のごみ袋の状況について山城さんは、「体感にはなるんですけど、5月入ったぐらいから透明な袋が全然売っていないというような電話をちらほらいただいて、5月中旬ぐらいから1日に2、3件お問い合わせをもらうような状況になっていました。横須賀市内の小売店28店舗に品薄状況の調査を行った結果、約70%の店舗で『透明な袋は品薄または在庫なし』という回答が来たことから本当に不足しているという状況が市民からの電話以外でもわかったので、今回透明以外でも使用可能にする変更に踏み切りました」と語った。
横須賀市は市民の方々に対して、ごみ袋の供給状況に関して「品薄に至った経緯としては、生産停止などによるものではなく、全体的な量は足りていて、不安などによる買い占めなどによるものである」と説明している。そして、ごみ袋のルールが変わっても引き続き分別を守ってほしいと語った。
広がる不安、求められる冷静な行動
洗剤や衣類の化学製品などナフサ不足による影響は私たちの身近なところに及んでいる。6月2日に内閣官房が公開している中東情勢に関する関係閣僚会議資料「ナフサ由来の化学製品の需給見通し」によると「国内でのナフサの精製を持続されており、代替調達によって供給量は従来の約85%まで回復している。ナフサ由来の化学製品を含む石油製品は年度を越えて供給を継続できる見込みとされている」としている。不安から必要以上の買いだめを行うと、かえって一時的な品薄を招く可能性がある。供給継続の見込みが示されている今こそ、一人ひとりが必要最低限の在庫確保を心がけ、冷静に行動することが、状況の改善につながるだろう。
取材協力・参考文献
山城空見さん(横須賀市役所資源循環部廃棄物対策課)
・帝国データバンク 中東情勢に伴うナフサなど石油製品供給状況に関する影響調査
・内閣官房 中東情勢に関する関係閣僚会議(第9回)議事次第 資料5 ナフサ由来の化学製品の需給見通し