路線バスにシートベルトがない理由
街中を走る路線バスにはシートベルトがないのに対し、高速バスなどはシートベルトの着用が義務付けられている。この違いは何なのだろうか。実は、一般的な路線バスは、道路運送車両法や道路運送車両の保安基準などにより、高速道路等を運行しない車両として扱われるため、立席を設けること、シートベルトを装備しないことが認められている。
また、東都観光バス株式会社によると、路線バスは、低速運行することが多いこと、短距離移動を目的としており、頻繁に乗り降りすることが前提とされていること、乗客が立って乗ることが予想されることから、シートベルトが装備されていない。(東都観光バス「貸切バスにシートベルト着用義務はある?法律や正しい着用方法を解説」2026,3)
シートベルトがなくても安全を守るために
それではシートベルトがない路線バスでは、乗客の安全を守るためにどのような対策がされているのだろうか。神奈川県横浜市に本社を置く京浜急行バスを訪ね、安全への取り組みについて伺った。
シートベルトがない路線バスでは、乗客の安全を守るために、細かいところまでの安全確認や運転操作が求められる。京浜急行バス安全推進部安全向上担当者は、「何よりも安全ということで、PDCAサイクルを基に、毎年度『安全輸送計画』というのを作成しております。前年度の課題や反省点を次年度の取り組みに活かし、安全性の向上につなげています」と話す。実際に京浜急行バスでは、事故防止目標として「交差点内における人身事故撲滅」「バス停発車時の車内人身事故撲滅」の2つを重点項目としている。そして、これらに関する施策は次の4つだと言う。
「1つ目は、当たり前なのですが『黄色は止まれ』を徹底しましょうねということです。2つ目は『左折時は早めの合図、一旦停止・目視』です。自分で顔を動かして自分から安全を確認しに行くことが大事なのです。3つ目は『扉操作』ですね。閉める前にもう一度確認、『ドアが閉まります。ご注意ください』の声かけ及びミラーと直視で安全確認、前の扉と後ろの扉を別々に閉めることですね。4つ目は、バス発進時において車内ミラー及び目視で全乗客の安全確認を行うことです。あとはマイク案内ですね。『発車します。おつかまりください。』と言って3秒後にゆっくり発車すると。今年はこの4つを絶対守ろうねとしています」
安全運行を支える運転士の意識
続いて、運転士が運行中に特に気を付けているところについてお話を伺った。
「『道路上の安全』と『車内の乗客の安全』の両方を同時に意識しながら運転しています。大型車ならではの車幅感覚が求められ、歩行者、自転車、バイクへの注意が特に必要です。乗客が立っていることも多いため、特に高齢者や子どもが転倒しないよう、慎重になります」
一方で、ヒヤリとする場面も少なくないと言う。交差点で右左折中、死角から歩行者が現れたときや、立ち客が乗車中に、危険回避に対し、急ブレーキを必要とせざるを得ないときもあるそうだ。車内事故で特に多く見られるのは、高齢者(65歳以上、特に75歳以上)で、発進・停車時にバランスを崩し、つり革や手すりにしっかり掴む前にバスが動いてしまって転倒するケースだという。
私は「雨の日の方が滑りやすく車内事故が増えるのではないか」と考え、このことについても聞いてみた。
「雨の日はそもそも外出を控えているからむしろ少ないです。あと、夜も外に出ていないから少ないです。夕方前、2時とかが多いですかね。両手に荷物は注意ですね。あとは、日が当たる側に座っている人が勝手に席を移動することもあるのです。最近は少なくなってきたけど、バス停に着く前に席を立ち上がってしまう人も多いです。だから運転士は徹底して『ドアが開くまで席を立たないでください。』と声掛けするようにしていますね」
自分が予想していたこととは全く違った。運転士の方は、道路状況はもちろん車内までに目を配りながら安全な運行を心がけてくれていることが分かった。
安全にバスを利用するために
最後に、利用者が安全にバスを利用するために心掛けてほしいことについて伺った。
「走行中は席を立たず、バスが完全に停車し扉が開いてから降車口へ移動する。立って乗車している場合でも扉が開くまでつり革・手すりにしっかりつかまってください」
安全なバス運行のためには、運転士やバス会社が様々な安全対策を行っていることが分かった。しかし、その安全を支えるためには、利用者一人ひとりの協力も必要となる。一人ひとりが意識することが、バスの安全に繋がる。
取材協力・参考文献
京浜急行バス安全推進部
・東都観光バス「貸切バスにシートベルト着用義務はある?法律や正しい着用方法を解説」(2026,3)